東京高等裁判所 昭和34年(う)1909号 判決
被告人 岩崎功
〔抄 録〕
所論は原判決が被告人は政野定晴の窃盗の意図を察知しながら政野から映写機を受け取り屋外に搬出したものと認定し、被告人は政野、江添と共謀して右映写機を窃取したものと認めたのは重大な事実の誤認があると主張するものである。
しかし原判決挙示の証拠を総合すれば被告人は昭和三十三年十月九日夜政野、江添と共に判示長谷川方に赴き同家応接間において、政野、江添等がその前夜判示第一記載のように長谷川を畏怖させ、交付することを約束させた十万円の履行について問いただした結果、右十万円は前夜政野、江添と共に長谷川方に同行した坂口厚登、桐生得二の両名が当日(十月九日)午後零時頃既に国鉄東京駅構内で長谷川から受け取つたことを知り、政野は、坂口、桐生等の行方を探すから交通費を呉れと要求し、長谷川から更に千円を交付することを承諾させたが、長谷川がその金を取りに行くため一時応接間を出るや、政野は江添及び被告人に対し先に出ておるように命じ応接間から立ち去らせた上、右応接間の北隅の置台の上にあつた長谷川所有の映写機一台を盗み、直ちに、右応接間の西に隣接する玄関で靴を穿いていた江添にこれを持つて行けと云つて渡し、その傍にいた被告人は政野がこれを窃盗するものであることを知りながら直ちに江添から右映写機を受け取りこれを持つて玄関から屋外に立ち出でたものであることが認められる。被告人は右映写機を窃取することについて事前に政野、江添等と共謀した事迹は認められないのであるが、前示のように被告人は長谷川が千円を政野に交付することを承諾して応接間を立ち去つた際政野から先に応接間を出るように云われ、玄関で靴を穿いていた江添に政野が映写機を持つて来て渡したのを直ちに同人から受け取り玄関外に持ち出したものであるから、被告人は政野が右映写機を窃取するものであることを知りこれに加功する意思で持ち出したものであることは叙上の情況から見て明らかなところである。そして被告人が映写機を受け取つた場所は右応接間に隣接した玄関であつて原審検証調書によれば、当夜右映写機が置かれていた応接間の北隅の置台との距離は二、三メートル離れているに過ぎないのであるから、被告人が右映写機を受け取つた当時、映写機は未だ長谷川の占有から政野の占有に移転していたものと認められず、被告人が更にこれを玄関より屋外に持ち出すことによつて、被告人等は右映写機をその実力支配内においたものというべきであるから、被告人の行為は政野の窃盗の意思を諒知し、これに共同加功する意図の下に窃盗の実行行為の一部を分担したものに外ならない。
(坂井 山本長 荒川)